役員に処遇改善加算を支給できるか?
結論:役所によって見解が異なります。
以下、役員への処遇改善加算について考察しました。
各自治体の見解
個人的には、和歌山県の説明が一番趣旨に合致し、正確な解釈であると思います。
和歌山県
使用人兼役員になる場合(もちろん処遇改善加算の対象職員として従事)は、処遇改善加算の対象になる。
代表取締役や理事長は使用人兼役員のなり得ないので対象外となっています。
大阪市
役員報酬とは別に給与が支払われており、勤務表や雇用契約書等で介護に従事している実績が客観的に判断できれば良いとなっています。
福岡県
役員報酬とは別に介護職員として賃金を得ている部分は処遇改善加算の対象になるとしています。
札幌市
役員報酬に対しては処遇改善加算を充てることは認められない。役員報酬とは別に処遇改善加算の対象職員として賃金を得ている場合は、その賃金に対して処遇改善加算は可能としています。
長野県
理事長等の法人代表者であっても、介護職員としての勤務実績があれば処遇改善加算の対象となっています。ただし、役員報酬を受けている場合は対象外となっているところが、他の自治体と少し違うところです。
名古屋市
代表取締役、代表社員、理事長などの代表者は対象外となっています。
他の役員は、対象職員として従事し、賃金が支払われている場合は加算の充当が認められるとしています。
岡山県
役員報酬に処遇改善加算を充てることは認められない。役員報酬とは別に処遇改善加算の対象職員として労働基準法上の賃金を得ている場合は、その賃金に対して処遇改善加算は可能としています。
「労働基準法上の賃金」という書き方は、他の自治体と違うところです。労基法上の賃金とあえて記載されているのがどのような意図があるのかはわかりません。
自治体によって異なる見解への懸念
複数の自治体に事業所を設置している法人は、ほとんどが法人単位で処遇改善計画を作成・提出しているものを思われます。
各自治体によって見解が異なると、例えば神戸市は代表取締役でも処遇改善加算の対象としていても、和歌山県では代表取締役は対象外になります。
実地調査等があった際に、代表取締役への処遇改善手当が自治体によって違反になるところと違反にならないところが出てきてしまうという不具合が生じます。
このような場合に、自治体はどのように対処するのでしょうか。
やはり、全国一律の基準が必要ではないかと思います。
当事務所の見解
処遇改善加算は、本来、介護職員の賃金水準が低いために、それを改善することを目的としています。
その趣旨からすると、役員であっても実質的に経営者なのか労働者の側面を合わせ持つのかによって、対象・対象外は明確になるはずです。
従って、例え介護職員として従事していても代表取締役や理事長は処遇改善加算の対象ではなく、他の労働者と同じように従事する役員のみが対象となるものと考えます。
当職は社会保険労務士ですので、社会保険労務士の観点から考えても、法人代表者は雇用保険に加入することができません。これは労働者としての性質が全くないことを意味します。
代表者への支給も可としている自治体もありますが、本来の趣旨に照らし、厚生労働省が公式な見解を出すべき事案かと考えます。
役員に処遇改善加算を支給する際の対処方法
役員に支給する場合は、少なくとも次の点をおさえておく必要があると考えます。
1.役員報酬と給与をわける
2.給与部分は雇用契約書、タイムカードにより管理する
3.役員も雇用保険に加入しておく(ただし、代表者は加入不可です)
4.役員報酬の支払い方について、税理士や税務所で確認しておく
5.役員であっても給与部分は労働保険料を支払っておく
※役員が雇用保険に加入する際は、兼務役員雇用実態証明書をハローワークに提出しましょう。
役員報酬が出ている時点でダメだという自治体や、代表者はそもそも対象外としている自治体もあるので、必ず各管轄の役所で確認してください。
なお、当事務所では、例え顧問先であっても、処遇改善加算の対象としても良いか否かの回答はしておらず、必ず事業所から役所への確認をお願いしています。
オフィス結いの業務内容
社会保険労務士法人オフィス結いは、行政書士と社会保険労務士のWライセンスにより、法人設立、指定申請、就業規則、助成金、労務管理、給与計算代行など、許認可だけではなく事業開始後も適正な労務管理など幅広くサポートできます。
指定申請
介護保険事業の指定申請の他、障害福祉サービスや老人ホーム・サ高住などの行政手続きを代行します。
法人設立
株式会社、合同会社、一般社団法人などの設立やNPO法人、社会福祉法人、医療法人の認可申請なども対応しています。
助成金・処遇改善加算
雇用保険適用事業所なら、助成金を活用できる場合があります。処遇改善加算やサ高住の補助金なども手続きしています。
労働社会保険
労災保険、雇用保険、健康保険、厚生年金など、労務手続きを代行します。
労務管理(顧問契約)
就業規則、賃金規定、36協定の作成や届出の代行、給与計算事務の代行など、適正な労務管理をサポートします。
医療法人による介護事業の開設
医療法人による介護・福祉事業の手続き、医療法人の定款変更認可申請などを数多く手がけております。